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3.11東日本大震災の被災状況を受けての意見交換

昨年の3.11東日本大震災において、新耐震による建築物の主要構造部に大きな被害は見られませんでしたが、天井落下を始め二次部材の被害が多く報告されています。このようななか、機構の判定員が携わった建築物被災状況調査の結果を踏まえて、他者の構造計算適合性判定審査及び自ら構造設計を行うに当っての感想、構造設計方針の変化などの状況について意見交換を行いましたので、その要旨を公開いたします。

◇3.11東日本大震災の被災状況を受けての感想、反省点など
○新耐震基準の効果または不備と思われる事項
B やはり、最低基準であるためギリギリで設計したものほど被害が大きいように感じた。自分の設計したものは全て新耐震以降であるため倒壊はしていないようだが、設計の考え方や設計手法が少しづつ変化し、またコンピューターの性能が上がり計算自体の精度が上がることでギリギリの設計を目指すようになり、建物の安全と別個なところで設計する手法が多いように感じる。
C 新耐震基準は、概ね妥当と思う。
しかし、現場における施工精度が重要なので、現場監理もしっかりしないといけないと思う。(たとえば、新耐震基準以降の建物でも、3.11東日本大地震でALC外壁等の落下が見られた事など。)
D 現規準は極めてまれな大地震時に倒壊しないレベルで定められているが、一般の人は大地震後も使い続けられる建物を求めており、耐震性に関して社会との認識の差がみられる。
E 現地調査の結果、新耐震による建物被害は少なく 新耐震以前の建物または津波による被害が大きいことを実感している。新耐震基準通りの設計であれば、一定の効果は十分あると思う。面外方向への剛性確認が今の基準では明確ではないため、十分注意をした設計をしたいと思う。
G 知見を反映させればキリがない。
要求性能に対して設計者が判断すべきであって、今以上の法律強化は不要だと思う。
H RC造も鉄骨造も建物全体の崩壊は概ね防御できたのではないか。RC造の二次壁の評価方法及び鉄骨造のブレース・アンカーボルトの想定応力(Ai・Fes等)及び設計方法については疑問視している。
I 新耐震基準の建物が旧基準の建物より被害が少なかったかというと、一概にはいえない。新耐震の建物は構造設計者の考え方が正しければ被災度が小さく、正しくなければ被災度が大きいという結果になっていると思う。
K 鉄骨システムトラス・木造集成の置き屋根をRC構造架構に乗せた建物に多くの被害が見受けられた。原因としては解析段階で上下分離モデルでの解析となりがちで、強度(検定比)にのみ囚われ、相互の変形追従性を担保する配慮不足が大きな要因と思われる。法による何らかの細則等を設けないと設計者及び審査側も見落としがちで有る。第2点目は、天井材、内壁材、設備器機と構造躯体(スリット等による靱性に依存する)の取り付けディティールと設計手法の確立が必要と思われる。
L 積載荷重の設定方法、設備と建物本体との接合部の安全確認が重要である。
M 基本的に考えなければならない事項については網羅されており、近年の地震においてもその被害は少なく役割は果たしていると考えている。ただ、公共施設等、災害時に利用される建物、事業継続が必要とされる建物等について、単なる用途係数の考え、地震力を割り増すだけで担保されるのかは疑問が残る。今後、設計者の能力が問われるところとも考えている。また、その被害は、地盤等による要因、2次部材による要因も大きく影響することが今回の地震で改めて気付づかせてくれたと思う。従って、特に構造設計者の幅広い見識と他専門分野とのコラボレーション・コミュニケーションがとても大事であることを再認識した。